人口密度と行政コストの関係|一人当たり歳出はどこで跳ねるか

市区町村の一人当たり歳出は人口密度が低いほど高く、増え方は直線的でない。2022年度決算で、人口密度10人/km²未満の帯の中央値は203.7万円、最も低い2,500〜5,000人/km²の帯は39.6万円(5.1倍)で、250〜500人/km²のあたりより低い側で増え方が大きくなる。ただし密度の低い自治体は人口も少なく、人口規模をそろえると密度による差は残るが小さくなる。以下は公表値による自前集計である。

一人当たり歳出のばらつきを見る

対象の1,741市区町村で、一人当たり歳出の中央値は62.8万円、人口密度の中央値は189人/km²だった。一人当たり歳出が100万円以上なのは421市区町村ある。

最も高いのは鹿児島県十島村の816万円(人口657人)、最も低いのは埼玉県伊奈町の30.0万円(人口45,221人)だった。人口で割る値なので、人口がごく少ない自治体では施設や職員にかかる一定の費用が大きく表れると考えられる。両端の値はいずれも、財政運営の良し悪しを示すものではない。小さな町村の高齢化は高齢化率上位自治体の記事で集計した。

人口密度(横軸)と一人当たり歳出(縦軸)の散布図。両軸とも対数目盛りで、1,698市町村・政令市20市・東京の特別区23区を色分けし、密度帯ごとの中央値を破線で結んだ(2022年度決算)

点は右下がりに並び、人口密度と一人当たり歳出の順位相関は-0.87だった。

人口密度帯別に中央値を集計する

集計方法

  • 出典は総務省統計局「社会・人口統計体系」の市区町村データ。歳出は総務省「市町村別決算状況調」、人口は住民基本台帳人口、面積は国土地理院「全国都道府県市区町村別面積調」を基にしたもの
  • 一人当たり歳出は2022年度の歳出決算総額を2023年1月1日現在の住民基本台帳人口で割った値。人口密度は同じ人口を総面積で割った値(人/km²)
  • 対象は1,698市町村、政令市20市(市全体)、東京の特別区23区の計1,741市区町村。政令市の区は決算を持たないので含まない
  • 密度帯は10未満から5,000以上まで(人/km²)の10区分で、境目はおおむね2〜2.5倍刻み。帯の中央値は市区町村の数で数え、人口で重みを付けない。外れ値は除かず、中央値を使って影響を抑えた

帯別の中央値

人口密度帯(10区分)別の一人当たり歳出の中央値の横棒。10人/km²未満の帯は203.7万円、2,500〜5,000人/km²の帯は39.6万円。各帯の市区町村の数を併記

中央値は10人/km²未満の帯(86市区町村)の203.7万円から、密度が上がるにつれて下がり、2,500〜5,000人/km²の帯(87市区町村)で39.6万円と最も低くなる。250〜5,000人/km²の帯どうしでは、帯を1つ下がるごとの上昇は5.0%〜11.9%にとどまる。250〜500人/km²から100〜250人/km²の帯に下がると24.5%高くなり、それより低い帯どうしでも23.8%〜43.0%と大きい。250〜500人/km²のあたりより低い側で増え方が大きくなると読める。ただし境目の位置は帯の切り方で動き、刻みを変えると増え方は連続的に変わる。

最も密な5,000人/km²以上の帯(102市区町村)では43.5万円とやや上がる。

東京23区と政令市

東京23区は消防や上下水道などの事務を東京都が担い、政令市は道府県の事務の一部を担うので、一人当たり歳出はそのまま比べられない。中央値は政令市55.3万円(人口密度の中央値2,037人/km²)、東京23区48.6万円(同17,049人/km²)である。

5,000人/km²以上の帯の102市区町村のうち29を東京23区と政令市が占めるが、市町村だけ(73市町村)でも中央値は41.4万円と、2,500〜5,000人/km²の帯の市町村(39.6万円)より小幅に高い。通勤・通学で昼間に流入する人の多い都市では、住民として数えない人への行政需要もあると考えられる(昼夜間人口比率の記事)が、本稿はこれを測っていない。

密度か、人口規模か

密度の低い自治体は人口も少ない(人口密度と人口の順位相関0.76、人口と一人当たり歳出の順位相関-0.79)。

一人当たり歳出を人口密度に両対数で当てはめると、密度が半分になると一人当たり歳出は1.18倍になる。人口を加えた2変数で当てはめると、密度の係数から求めた値は1.10倍に縮む(決定係数0.73)。同じ当てはめで人口が半分になると1.11倍で、人口の係数も同じくらいの大きさである。両方が同程度に関わり、密度だけで説明できるわけではない。どちらも記述的な当てはめで、密度が変われば歳出が変わるという因果を示すものではない。

人口1万〜3万人の450市区町村に限り、10件以上ある帯の両端で比べても、密度10〜25人/km²の帯(17市区町村)の中央値は100.3万円、2,500〜5,000人/km²の帯(13市区町村)は43.2万円と差が残る。全体での同じ2つの帯(145.1万円と39.6万円)より差は小さい。ただし両端の帯は件数が少ない。人口規模をそろえても密度による差は残るが、小さくなる。

密度が下がるとなぜ高くつくか — 費目別の分解

費目別の倍率

費目別に、10人/km²未満の帯の一人当たり中央値が2,500〜5,000人/km²の帯の何倍かを示す横棒。普通建設事業費10.8倍、総務費8.9倍から民生費1.7倍までの7費目を倍率の高い順に並べ、歳出総額の倍率5.1倍を破線で示した

10人/km²未満と2,500〜5,000人/km²の帯の中央値の比を費目別に見ると、普通建設事業費10.8倍、総務費8.9倍、公債費8.1倍、土木費6.7倍は歳出総額の倍率(5.1倍)を上回り、人件費5.1倍は総額並み、教育費3.7倍と民生費1.7倍は下回る。総務費・民生費・土木費・教育費・公債費は目的別、人件費・普通建設事業費は性質別の分類で、分け方が違うので足し合わせず、歳出総額の内訳としても扱わない。

民生費は一人当たりの中央値が28.3万円と16.3万円で差が小さい。住民の数に応じて増えやすい費目だからと考えられるが、事務の分け方も効いている可能性がある。福祉事務所は市(特別区を含む)には設置義務があり、置かない町村の生活保護は都道府県が実施する(社会福祉法第14条、生活保護法第19条)。10人/km²未満の帯は86市区町村のうち85が町村、2,500〜5,000人/km²の帯は87市区町村のうち66が市である。

差が大きいのは施設や道路の整備(普通建設事業費は35.2万円と3.3万円)、総務・企画・財産管理などの総務費(基金への積立を含みうる)、土木費で、公債費は過去の建設の借入の返済を映している可能性がある。一定の規模が要る費用を少ない住民で割るためという仮説が立つが、施設の数や道路の延長は測っていない。

よくある質問

地方交付税で補われるのでは。 本稿は歳出の大きさだけを集計しており、歳入や地方交付税は集計していない。補われる程度は本稿のデータからは言えない。

人口集中地区(DID)の人口比率との関係は。 DID は集計していない。近い確認として、林野と主要湖沼を除いた可住地面積で人口密度を測っても、一人当たり歳出との順位相関は-0.85で、総面積での-0.87とほぼ同じだった。

まとめ

一人当たり歳出は人口密度が低いほど高く、250〜500人/km²のあたりより低い側で増え方が大きくなる。最も密な帯ではやや上がる(市町村だけでは小幅)。前年度の2021年度でも両端の帯の比は4.9倍で、形は同じだった(どちらの年度も新型コロナ対策の歳出を含む)。ただし密度は人口規模と重なり、規模をそろえると差は残るが小さくなる。差は施設・道路の整備や総務費・公債費で大きい。

都道府県どうしの人口の指標は人口カルテ47の都道府県比較で見られる。ツールの紹介は人口カルテ47にある。

参照: 歳出・人口・面積は総務省統計局「社会・人口統計体系 市区町村データ」(e-Stat 統計表 0000020204 行政基盤・0000020201 人口・世帯・0000020202 自然環境)による。歳出は2022年度と2021年度の歳出決算総額と費目(元は総務省「市町村別決算状況調」)、人口は2023年1月1日現在と2022年1月1日現在の住民基本台帳人口、面積は総面積と可住地面積(元は国土地理院「全国都道府県市区町村別面積調」)。項目の説明は総務省統計局「統計でみる市区町村のすがた 2026」 https://www.stat.go.jp/data/s-sugata/pdf/all_shi.pdf 、住民基本台帳人口の全国値は総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数(令和5年1月1日現在)」 https://www.soumu.go.jp/main_content/000892867.pdf で照合した。福祉事務所と生活保護の実施機関は社会福祉法 https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC0000000045 と生活保護法 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000144 (e-Gov 法令検索)による。確認日はいずれも 2026-10-18。一人当たり歳出・人口密度・密度帯・中央値・倍率・順位相関・回帰・件数は本稿の集計。集計・確認日 2026-10-18。本稿の数値と図は、上記の統計(政府統計の総合窓口 e-Stat で公開)と総務省の資料を基に doand.tech が加工して作成したもので、国が作成したものではない。